2016年03月02日

古くて新しい不思議な企業セコマの凄み。

セイコーマート、いや、4月1日からはセコマと言わなければならないこの会社の凄みは何なのか。前回のエントリでも触れたが、常に変化をする会社で原形を留めないという特徴がある。北海道の名門企業数あれど、北海道の商都・北のウォール街と言われた小樽において明治34年創業「北の誉」で酒造業において成功し、和光荘・銀鱗荘など高級旅館・ホテル業の北海ホテルグループとしても成功した丸ヨ野口の野口一族は名門中の名門だった。セイコーマートの創業者西尾長光氏は、野口家とは姓が違うが北の誉創業者吉次郎の弟西尾長次郎の家系で札幌で暖簾分けした札幌北の誉酒造や酒卸の丸ヨ西尾の経営一族だった。北の誉は北海道行政の中心札幌と軍事の中心旭川にも暖簾分けしたが、本家小樽市の衰退によりこれら三社を合併、行政の中心で分家筋の西尾家のお膝元・札幌市に本社を移す事になるが、セイコーマート創業者西尾長光社長が清酒不振により北の誉ブランド売却・卸専業化の決定すると、北の誉ブランドは漂流する。だが、もともと野口家のバックアップで経営を立て直した合同酒精オエノングループが北の誉を傘下に収め、さらに野口家本家から社長を招聘する形で小樽の野口家の地酒として復活していた。ところが、昨年オエノングループは小樽工場の閉鎖を決め、合同酒精のルーツで、暖簾分けした丸ヨ岡田(北の誉創業者野口吉次郎の仕事仲間・共同出資者の岡田氏が初代)のルーツである旭川の工場に製造を一本化する事になった。そして、北の誉丸ヨ御三家で最も元気の良かった西尾家もセイコーマートの経営から退き、岡田家、本家野口家も一線から退いているので無常感がある。北の誉は無く、丸ヨ西尾の名も消え、創業者西尾長光氏の「西」と「光」から取った社名店舗名のセイコーマートもセコマのストアブランドの一つとなった。現在、セイコーマートのオリジナル焼酎に「長次郎」という名を残しているが、これも消えると完全に西尾家との決別を意味するのだろう。

ただ、一方でセコマは先祖返りのような流れもしている。小売・卸から製造部門に重点を戻し、製造部門に関連して、自社農場も整備している。これは丸ヨ御三家が明治30年代に旭川に酒造用の米農地に共同出資している考えると、100年ぶりの自社農場復活とも言える。垂直統合はお家芸なのだ。戦前、サハリンのコルサコフにも北の誉の製造工場があったが、現在、セコマはサハリンへオリジナル商品を輸出している。首都モスクワから離れ、寒冷のため食品自給率も低いサハリンは中国製品の独壇場となっているが、セコマブランドの商品は貴重な日本産食品としてサハリン南部では一定の認知度を得ているとされる。樺太での拠点復活はセコマの悲願なのかもしれない。また、北海ホテルを買収したり、陸軍師団設立に合わせた旭川進出も、ホテルや自衛隊への商品供給事業と重なる。実際、洞爺湖の保養所フェニックス洞爺クラブを一般開放する事で、ホテル業を自ら行っている。西尾色が薄れる一方で、北の誉の栄華をなぞるような企業展開は面白い。北の誉同様に東京に販売拠点を置いたのは、先祖帰りの総仕上げにも見える。

北の誉のライバルは同じく清酒千歳鶴だったわけだが、セイコーマートのライバルはセブンイレブンだ。北の誉はライバルとの戦いに敗れた感があるが、その流れを汲むセイコーマートはコンビニエンスストアとして北海道一になっているのは面白い。セブンイレブン進出時、札幌基盤のセイコーマートは相当押し込まれた。セイコーマートの作戦は、北海道の地方都市進出に活路を見出す事だった。追うセブン、逃げるセコマという構図だったが、人口密度の低い商圏に対応する為、物流を効率化し、製造部門を各地に配置する事で自社商品の強化と低価格化に成功した。このビジネスモデル確立で、セコマが農村部から札幌圏へ反転攻勢に出ているのが今の流れだ。そして、反転攻勢の武器がホットシェフとイートインコーナーの拡大だ。一方で、王者セブンは資本力と商品力・運営力でセコマの反転攻勢を向かい撃ち、セコマの店舗数を殺ぐよりも、ローソン・サンクスを潰す事で、店舗数を増やし、プライドにかけて北海道一の座を狙うだろう。しかし、個人的にはセイコーマート店舗数を上回るのは簡単ではないと思う。セブンが札幌メインで千店、千百店というのは厳しい。セコマのイートインコーナー拡大というのは、実にスジの良い一手だ。また、セコマの最大の弱点は、大手と比べた際の資本力の小ささだが、対外向け製造部門強化政策によって資金力が上がれば、大手の力押しにも反撃できるようになるだろう。現在でもセコマは自己資本比率が5割以上あるはずなので、簡単に崩れはしないだろうし、セブンがいくら良くても、同じ店ばかりだと飽きがくるという心理もある。ローソンやファミマ化するサンクスもこれまで以上に強化されるので、セブンの独壇場が続くというのは北海道では難しい。また、セブンは自社競合の問題が拡大し、FCの不満が高まっている。北海道は客単価が低いので、本州以上にセブン同士の喰い合いの不満が強い。しかし、困った事に、セイコーマートは7割以上が直営店だ。セブンが抱える自社競合の問題が小さい。セイコーマートは食堂代替のホットシェフから、スーパーマーケット的な品揃え、そして低価格と客層を多様化できる上、店舗分布も全道に広がるなどバランスが良い。セブンは最強のコンビニではあるが、北海道においてはセコマと比較するとアンバランスなのだ。また、セイコーマートクラブカードというFSPプログラムをセコマは持っており、かなり詳細な顧客購買情報分析を行っていると言われている。しかし、セコマはFSPを利用した販売促進の手の内をほとんど見せていない。FSPは情報を取る事がメインなので、道内のカード保持者が多くデータを取れている現在のバランスを崩してまで販促をする必要がないと考えているのだろう。しかし、FSP先進国の欧米ではかなりエグイ顧客個人に絞った販促を行っているし、セコマにもそれが可能なのだが、セブン(もしくは、イオン?ウォルマート?)との最終対決に切り札として取っているのだろう。しかし、時代に合わせて柔軟に企業の形や名前を変えていくこのサバイバリティがこの企業に凄みで、ひょっとしたらセブンとのライバル対決自体の意味も無くなっているかもしれない。北の誉というブランドは手を離れたが、北海道の牛乳専売公社と言われた雪印が亡き今、北海道の牛乳トップシェアを争っているのは、よつ葉乳業とセコマ子会社の豊富牛乳公社だ。地酒の雄だった企業が、北海道のコンビニと乳業を代表する企業になっている。
posted by 瀕死の北海道経済への処方箋ブログ at 11:52| セコマ・セイコーマート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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